― “削る技術”で世界を制す、高ROICニッチ覇者 ―
イントロダクション
半導体産業は「作る」産業であると同時に、「削る」産業でもある。
ウェハを極限まで薄くし、1枚の円盤から数百〜数千のチップを正確に切り出す工程は、最終製品の性能と歩留まりを左右する。
その“削る”領域を世界的に支配しているのがディスコ(6146)である。
露光や成膜といった前工程が脚光を浴びる中、ディスコは後工程の精密加工というニッチで圧倒的地位を築いてきた。本稿では、最新実績を踏まえながら、同社の収益構造と資本効率を解剖する。
企業の本質
ディスコの本質は「精密加工の極限化」にある。
主力はダイシング装置(切断)と研磨装置、そしてそれらに使用する消耗品である。半導体の微細化・高性能化が進むほど、加工精度の要求水準は高まる。わずかなズレや欠けが歩留まり悪化に直結するため、装置精度と加工ノウハウは競争優位の源泉となる。
ディスコは装置単体ではなく、装置と消耗品を一体で提供し、加工品質を総合的に最適化するモデルを確立している。
業界構造
半導体装置業界は前工程が主役と見られがちだが、後工程も極めて重要である。
ASMLや東京エレクトロンが前工程で覇権を握る一方、ディスコはダイシング分野で高シェアを持つニッチ寡占企業だ。市場規模は前工程ほど大きくないが、参入障壁は高い。
その理由は三つある。
第一に、長年蓄積された精密加工ノウハウ。
第二に、顧客との共同最適化による深い関係性。
第三に、消耗品ビジネスとの組み合わせ。
この構造が価格競争を回避し、高い利益率を可能にしている。
ビジネスモデル
ディスコは装置販売というフロー収益と、消耗品というストック収益を併せ持つ。
装置は市況に左右されるが、導入台数が増えるほど消耗品需要は積み上がる。つまり、過去の装置販売が将来の安定収益を生む構造である。
このハイブリッドモデルが、営業利益率40%超という異例の水準を支えている。
3年財務推移
2023年から2025年にかけて、売上は約2,841億円から3,933億円へと拡大した。営業利益は約1,104億円から1,668億円へ増加している。
特筆すべきは利益率の上昇である。売上の伸び以上に利益が伸び、営業利益率は40%超水準へ到達した。これは単なる市況回復ではなく、収益体質の改善が進んでいることを示唆する。
2025年は予想ではなく実績であり、過去最高水準を更新した。
CAGRの意味
CAGR(年平均成長率)とは、複数年にわたる成長を均した指標であり、一時的な増減を排除して持続的成長力を見るためのものだ。
ディスコの直近3年間の売上CAGRは約17%、営業利益CAGRは約23%程度と推定される。利益成長率が売上を上回っている点が重要である。
これは価格競争に陥っていない証拠であり、競争優位の強さを示す。
ROICという視点
ROIC(投下資本利益率)は、企業が投入した資本に対してどれだけ効率的に利益を生み出しているかを示す指標である。
ディスコは近年、20%超〜30%前後の高ROIC水準を維持していると見られる。背景には、高い営業利益率、消耗品による継続収益、そして過度な設備投資を行わない経営姿勢がある。
高ROIC企業は、利益を再投資することで複利的成長を実現しやすい。ディスコはその典型に近い。
市況との関係
半導体産業は循環性を持つ。設備投資は増減を繰り返すため、ディスコの業績も短期的には変動する。
しかし、AI・車載・パワー半導体といった用途拡大は構造的追い風である。さらに、既存装置向け消耗品が一定の下支えとなる。
完全な景気敏感株というより、「循環の中に強固な収益基盤を持つ企業」と評価できる。
バリュエーション
現在の株価水準ではPERは高めで推移している。市場はディスコを高品質銘柄として評価している。
重要なのは、割安か割高かではなく、ROICと利益率が維持できるかどうかである。循環のピーク局面で過度に楽観するのではなく、市況調整局面での分割投資が合理的戦略となる。
総括
ディスコは“削る”という一点に経営資源を集中させた結果、世界的競争優位を築いた企業である。
営業利益率40%超、利益CAGR20%超、高ROIC体質。
ニッチ寡占 × 高資本効率という構造は強固だ。
一方で、市況循環という現実も忘れてはならない。
投資判断の核心は、
「ROICが維持されるかどうか」
この一点にある。
【執筆:2026年3月】

